プログラミング教育の必要性

プログラミングに関する教育がもたらす効果に関する教育事業者への調査結果

プログラミングに関する教育を実施する教育事業者に対するアンケート結果では、プロ グラミング教室・講座によって得られる・伸びると思われる能力や意欲について、いずれの能力や意欲についても効果ありとする事業者が多い。また、相対的には、 「新しいものを生み出す創造的な力」を効果ありと回答する事業者が最も多く、次いで、「自 ら学ぼうとする意欲」、「ものづくりの意欲」、「ものごとをやり遂げる粘り強さ」の順で、 効果ありとの回答が多くなっている。

図  プログラミングに関する教育がもたらす効果

また、各能力等を伸ばすための学習段階として効果的だと感じられる年代(「就学前」、「小 学校低学年」、「小学校高学年」、「中学校」、「高等学校」の 5 区分)について、各年代を対 象とした講座・教室を実施している事業者に質問した。その結果、就学前では「新しいも のを生み出す創造的な力」、「自ら学ぼうとする意欲」に効果が見られ、小学校低学年では 「新しいものを生み出す創造的な力」、「自ら学ぼうとする意欲」、「ものづくりの意欲」に 効果が見られた。また、小学校高学年~中学校では、これらに加えて、「距離、量、回数、 見込などの数量的な感覚」「論理的に物事を考える力」「ものごとを計画的に行う力」「もの ごとをやり遂げる粘り強さ」「他人と協力する力」に効果がみられた。 小学校低学年までは意欲や創造力、小学校高学年以降は、意欲や創造力に加えて、数量 的感覚、論理的思考力、計画性や粘り強さなど、幅広い能力の向上に効果的だと考えられ ている。 教育事業者からのアンケート及びヒアリングにおいて、プログラミングにおける教育が 効果的と考えられる点についての情報収集を行った。主な意見は以下のとおりである。 a.創造力の向上 プログラミングでは自由に作品を制作する課題を与えることが多いため、子供たちの作 品制作を通じて、作りたいものを実現するという創造力が向上するとの意見が多く得られ た。  つくるものを統制せず、作りたいものを実現まで導くことで創造性を発揮できる。  創造力がつく。作りたいものを作る、楽しむ、さらに作るという好循環が生まれる

 同じテーマの中で他者との発想の違いを感じ、その上でアイデアを相乗的に膨らませて いく面白さや楽しさを体験できるため、子供の「共に創る力」を育む効果が大きい。  小学校 3 年生から 6 年生までの間にプログラミングを経験させて、ゼロからものを作り 出す面白さを実感させることで創造性が伸びる。受講生徒の年齢が上がるにつれて、ゼ ロからものを作り出すという創造性は弱くなり、その場における正解を推測して答えを 提示しようとする傾向が強まる。 b.学習意欲の向上 プログラミングは制作物の実行と結果の確認ができることから、その活動自体が子供た ちにとって楽しいものであるため、子供は積極的に活動に取り組むこと、数学的な知識を 体感しながら学べることから、学習意欲が向上するとの意見が得られた。 また、デバッグやトライアンドエラーを繰り返して作品を完成させるというプログラミ ングの作業特性から子供たちがプログラミングの様々なタイミングで気づきを得るため、 子供たちの忍耐力、集中力が持続し、学習意欲が向上するとの意見があった。  ビジュアル言語では、未就学児や小学校低学年でも、2 次元座標や角速度(回転)の概 念がわかり、自分で思い通りにプログラミングする。プログラミングを利用することで、 教科書を機械的に覚えるのではなく、自分で動かして納得する、という学びができる。  プログラミング自体に楽しさがあるため、学習意欲の向上が認められ、自ら取り組もう とする意欲が向上する。結果として、受験や試験のための勉強ではなく、課題解決や楽 しむための学びとなり、学習の意欲が根本的に変革できる。  うまく動かない際のデバッグやしくみが分かった時の腑に落ちた感じなど、参加者それ ぞれのタイミングで色々な気づきや成長がある。  トライアンドエラーを繰り返すことにより、忍耐力、集中力がつく。宿題だと 30 分も 集中できない子供が 3 時間集中できている。 c.課題解決能力(論理的な思考力、計画性等)の向上 フローチャートや仕様書の作成とそれらに基づきプログラミングするという過程で、俯 瞰的に考えたり、時系列で考えたり、仕組みを考えるなどの合理的、論理的な思考が必要 となるため、論理的な思考力や課題解決能力が向上するとの意見が得られた。  可視化に優れ、見通しが立てやすいロボットを通して、「失敗をして、見通しをたてて やりなおす」ことによって、論理的思考力を学ぶ。  流れ図を用いることで、俯瞰的に時系列で物事を見ることができるようになる。  手続き型言語を扱うため、順番の重要性が伝わる。  論理的に物事を考える力が育つ。  作りたいもの(仕様書)を具体的に再現する手段を考えることで、論理的な思考力の向 上に繋がる。  フローチャートを書けるようになるため、論理的思考力が伸びる。  課題発見力や課題解決力が身につく。 d.表現力の向上 仕様書の作成やプログラミングの過程を通じて指導者や受講生同士で相談が必要になる。 子供が自分の考えを説明するという活動を通じて、表現力の向上が図られるとの意見があ 37 った。また、完成した作品の発表を通じて、子供のプレゼンテーション能力が図られると いう意見が得られた。  頭の中にあるイメージを紙に描くことで、仕様書ができ、それを元に作成すると、表現 力の向上につながる。  やりたいこと、知りたいこと、考えていることなどを、言葉で相手に伝える能力も身に つく。  作品の発表の場を通じて、子供たちの表現力、プレゼンテーション能力が向上する。 e.行動力の向上 プログラミングの過程で子供たち同士で相談したり、教えあい、学びあうことを通じて、 目的達成のために前に進む主体的な行動力が身につくとの指摘があった。  子供たち同士で教え合うことを身に付け、受け身ではなく、主体的になり、行動力に繋 がる。 f.情報利活用能力、プログラミングスキル、英語力の向上 プログラミングにおいて、テキスト型言語を取り扱う場合には、アルファベットや英単 語に触れる機会があるため、英語力に好影響があるとの意見があった。 また、プログラミングの過程で、不明点を調べたり、既存のライブラリを利用するなど の作業を行う際にインターネットによる情報検索を行うため、情報検索能力の向上など、 情報利活用能力が向上するとの指摘があった。 また、プログラミングスキルそのものが向上するという意見があった。  テキスト型言語を使っているため、ある程度は英語力にも良い影響がある。  作業の過程や作品公開を行うことを通じて、情報モラルが身に付く。  プログラミングスキルと言語力や検索力(情報利活用力)が向上する。  アルファベットや英語に慣れる効果がある。 g.理科好きの育成 プログラミングは理科好きを育成する効果があるとの指摘があった。  子供が科学を学ぶツールとしてプログラミングを活用できるようになる。  理科が好きになる子供が増える。 h.卒業生の活躍 プログラミングを学んだ生徒が NPO の立ち上げ等で活躍し、また、理系の学校への進学 実績があることなどの指摘があった。  卒業生がプログラミングに関する教育の NPO を立ち上げたり、ワークショップを主催 している。  スクラッチカンファレンスに出席したり、スクラッチデイ東京のミーティングに参加す るなど、主体的に活動できる人材が育っている。  卒業生が高等専門学校に進学したり、理系の進学校に進学するなど、高度な人材が育成 できている。 i.その他 プログラミングの作業過程において、短時間でトライアンドエラーを行いやすいという

特性があるため、繰り返し取り組むことが容易であり、これまでに挙げたような教育効果 が生じやすいという意見があった。 また、プログラミングは芸術やスポーツと同様の活動だと捉えるべきであり、天才的な プログラマーを育成するためには、若年層から学ぶことが必要になるのではないかとの指 摘があった。  プログラミングは、トライアンドエラーが早いため、成長速度が速い。  音楽等と同様に、天才的な域に到達するには子供のころから学ぶ必要がある。 各教育事業者が実施する事業の目的によって、目指す人材像や感じている効果は異なる ものの、プログラミングの有する様々な特性に応じた効果が得られていた。プログラミン グの特性別にプログラミングに関する教育の効果を整理すると、以下のとおりである。

表 6-1 プログラミングの特性とプログラミングに関する教育の効果

プログラミングの特性     プログラミングに関する教育の効果

ICT を利用する ・プログラミング能力の向上 ・検索力等の情報利活用力の向上 ・コンピュータに関する知識の理解

フローチャートや設計図、仕様を 考える ・論理的思考力の向上

インタープリター型言語におい ては、試行錯誤が容易である(結 果がすぐにわかり、改善点が明確 である) ・課題解決能力の向上

モノづくりである ・完成させる、やりきる力(忍耐力、集中力)の向上 プログラミング自体及び成果(作 品)が子どもにとって魅力的であ る ・プログラミングや関連スキル(情報利活用力、語学力等) に対する学習意欲、関心、動機の向上

チームでの活動を設定できる ・主体的な行動力の向上 ・自己・他者肯定感の向上 ・発表力の向上 ・チームでの活動力の向上

プログラミングはツールであり、 多様な目的で活用できる ・より多くの子どもへの関心・意欲、動機付けに有効 ・創造力の向上 ・表現力(デザイン力)あるいは論理性の向上

その他 ・早期教育による天才的プログラマーの育成可能性向上

 

プログラミングに関する教育がもたらす効果 現在、実施されているプログラミング教室・講座は、プログラミング体験自体を目的と していたり、プログラミングを楽しみ、創造力を養うことを目的としていることが多かっ た。一方で、有識者や教育事業者からは、プログラミングに関する教育の効果はあるかも しれないが、それをプログラミングの目的とすべきではないとの指摘が多くあった。効果 を得ることを目的とすると、プログラミングが他の教育手法よりも効果的であるかどうか 39 を問われることになり、結果として、プログラミングに関する教育の推進を阻害すること を危惧する指摘であった。 諸外国におけるプログラミング/コーディング教育においては、主に高度 ICT 人材育成 を目的とする「ICT 業界での雇用されるために必要な能力の育成」、「高等教育におけるコン ピュータ科学専攻者の増加」よりも、「論理的思考力の育成」、「コーディング・プログラミ ングスキルの育成」、「問題解決能力の育成」など、主に、21 世紀型能力の育成を目的とし ている国が多いことが明らかとなった。実際に、下図のように 21 世紀型能力で示されてい る能力と、有識者や教育事業者に対するヒアリングで得られたプログラミングに関する教 育の効果を比較すると、21 世紀型能力として示された能力のうち、一定の範囲をカバーし ていることが確かめられた。

 

図 6-2 21 世紀型能力37(出典:国立教育政策研究所試案をもとに弊社加工)

また、プログラミングに関する教育がもたらす効果について、学説または有識者の意見 と教育事業者の見解の対応関係を表 6-2 に整理した。同表から、学説または有識者の意見 と教育事業者の見解は、概ね整合していることが確認できる。 このようなプログラミングを通じた人材育成をより効果的なものとするためには、目的 に照らしてプログラミングのどのような特性を活用するのかを検討し、適した教育手法、 ツール、教育プログラムを選択していくことが必要と考えられる。

表 6-2 プログラミングに関する教育がもたらす効果

学説または有識者の意見  事業者の感じる効果

創造力38の向上 ・プログラミングでは自由に作品を制作する課題を与えることが多い ため、子供たちの作品制作を通じて、作りたいものを実現するとい う創造力が向上する。 ・ものを作り出す面白さを実感させることで創造性が伸びる。

課題解決力39の向上 ・プログラミングでは、結果がすぐにわかり、改善点が明確であるこ となどから、トライアンドエラーを繰り返しやすく、課題発見力、 解決力が身につく。 ・プログラミングを完成させるという目的達成のために前に進む主体 的な行動力が身につき、完成させ、最後までやりきる力が身につく。

表現力40の向上 ・プログラミングの過程で、プログラムの構想を書いたり、受講者同 士で教えあい、学びあいをしたり、作品を発表したりすることによ って、表現力が向上する。

合理性、論理的思考力41 の向上 ・フローチャートやプログラムの構想の作成とそれらに基づきプログ ラミングするという過程で、俯瞰的に考えたり、順序立てて考えた り、仕組みを考えるなどの合理的、論理的な思考が必要となるため、 論理的な思考力が向上する。

意欲の向上(内発的な 動機づけ効果)42 ・プログラミングという活動自体が子供たちにとって楽しいものであ るため、子供は積極的に活動に取り組む。 ・デバッグやトライアンドエラーを繰り返して作品を完成させるとい うプログラミングの作業特性から、子供たちがプログラミングの 様々なタイミングで気づきを得るため、子供たちの忍耐力、集中力 が持続し、学習意欲が維持、向上される。

コーディング・プログ ラミングスキル 40の向 上 ・テキスト型言語を用いて高度なプログラミングを行ったり、大人と 同様の習熟を見せるなど、子供であってもプログラミングスキルが 向上する。

コンピュータの原理に 関する理解43 ・プログラミングの過程で、不明点を調べたり、既存のライブラリを 利用するなどの作業を行う際にインターネットによる情報検索を 行うため、情報検索能力の向上など、情報利活用能力が向上する。 ・プログラミングの活動を通じて、コンピュータの性質・原理に対す る理解が深まる。

 

プログラミングやロボットをはじめとした、テクノロジーを活用したものづくりには、創造力を養う上で有効なものが揃っています。
プログラミングを行う上で、論理的思考力や問題解決能力が身につくことはもちろんのこと、デジタルデータだからこそ、すぐに修正や改善をすることができるため、試行錯誤する力がつき、自分で考えたことを形にする経験を積むことができます。

海外ですすむデジタル教育

イギリスUK

アイデアを形にする、企業マインドが育つ

イギリスでは、小中学校でプログラミング教育がすでに必修化し、さらに、中学・高校を中心に、3Dプリンタの導入も進んでいます。子どもたちの自由な発想を具現化する機会を提供する中で、あらゆる分野においてアイデアやデザインを形にする力を持つ人材や新たな事業を起こす起業家の育成を目指しています。

アメリカUSA

アメリカ経済の牽引役となる人材を

アメリカでは、国策として、STEM(ステム:科学、技術、工学、数学の頭文字をとった理数系教科の呼称)推進を掲げ、全米規模でプログラミング教育を力を入れています。将来的に、アメリカ経済の牽引役となる人材を社会に輩出することを目指しています。

イスラエルISR

国語や数学と同等のプログラミング学習量

イスラエルでは、プログラミング科目を、最短でも3年間で90時間(毎週1 時間×3年間)を必修としています。より高度なコースでは日本のほぼ数学や国語の学習時間に匹敵するほどです。その結果か、日本の四国ほどサイズの国に関わらず、米国NASDAQへの上場数は2位で、多くのスタートアップ企業が成功しています。

海外ではデジタル教育の導入が加速化

海外ではすでにテクノロジーやものづくりの教育的価値に注目が集まっており、実際に教育現場で様々な取り組みがなされています。導入が進む国の中には、「プログラミング教育=将来のハイレベルIT人材育成」と、プログラマーなどの職業に直接結び付けるのではなく、情報化、グローバル化の進む21世紀社会を担う子どもたちに必要な創造的・論理的思考力、情報技術活用の力の育成という位置付けで捉えられています。

 

未来のイノベーターを育てるために

未来を自分で切り拓いていく力を育てる上で、知識やスキルの習得だけではなく、他者との関わりの中でテクノロジーを活用し、「自分で考え、自分でつくり、自分で伝える」といった創造力を育むことは重要です。
プログラミングやロボット製作といったものづくりは、自由度が高いため、子どもたちの心に火をつけ、本来持っている力や興味を引き出す上で有効です。その中で培ったものこそが、ロボットやAI(人工知能)が当たり前になっていく時代でも、テクノロジーを主体的に使い、表現することを恐れない力となっていくと私たちは考えています。